青銅のマスク事件あるいはモロ・ド・ヴィンテム事件(3)

 ヴァレの『コンフロンテーション』の紹介は今回で完結します。


第三段階の捜査とは、予想されるように、ミゲルとマヌエルの未解明の死に対する、人々のフラストレーションから生まれた、とっぴな推論や馬鹿馬鹿しさ、非常手段としての強引な説明、といった特徴を持つ。


ブラジルのある心霊主義者たちは木星人とチャネリングによりコンタクトしていると主張している。木星人からのメッセージによると、被害者たちの死は円盤からの指示がある前に(彼らを乗せるためにやってきた円盤の中に)走り込もうとしたために生じたものだという。チャネリングによると、木星人たちはみな女性で、人間よりも平均身長が30センチほど高く、口が縦長についていて、手の指は四本だという話だ。誰もこの「暴露」を信じようとはしなかった―被害者たちが走っている途中で死んだ証拠など何もなかった。

密輸と自動車窃盗で服役中のハミルトン・ベザーニという男の自白は、より興味深い。彼は警察に、ミゲルとマヌエルに対する殺人について彼が深く関与していた旨の供述を行った―ベザーニは、彼らを殺すために雇われたのだという。ベザーニとさらにあと三人の暗黒街の住人たちが彼らから金を奪い、丘の頂上へと連れて行き、銃口を突き付けて毒を飲ませたのだそうだ。警察は、ヴィンテム丘事件でベザーニを逮捕する寸前までいった、と語っている。しかしヴィンテム丘事件でベザーニが逮捕されることはついになかったし、長期の懲役刑に服役中の囚人のこのような疑わしい発言を真に受ける者はいなかった。


ベザーニの自白も木星人からのチャネリングによる暴露も、この殺人事件の細部を説明できていない。私たちは、医学博士にして、超心理学関係の専門的な参考人として法廷に招致され幾つかの心霊主義者関係の事件を解決してきたシルヴィオ・ラゴ教授と、教授の自宅で長時間話をする機会を得た。ラゴ教授によると、被害者たちは、超自然的存在が顕現するとされるような一連の交霊会に参加していたのだろうということだった。カンポスでの実験やアタフォナ海岸での爆発の後、マヌエルは現場で火薬を見つけている。マヌエルは、(おそらくはエルシオを含む)他のメンバーたちが、“超自然的存在”の実在をマヌエルにたやすく信じ込ませられると思ってでっち上げを仕組んだ、と怪しんだのだろう。しかしながら、Soares刑事は、被害者たちが”超自然的存在”との三度目の接触を企てたとするのは疑問であるとの見解を示した。被害者たちの背後には、より高位の人物がおり、その人物の指示に彼らは従ったのではないか――おそらくその人物がノートにあの指示を書きつけたのだ、というのだ。
私たちは今まで述べてきたような、事件の細部についての再検討を現場で行っていたが、私はふと、死体が見つかった場所だけは地面に植物が育成していないことに気が付いた。私は現場の正確な位置がこの場所で間違いないか、尋ねた。死体の目撃者は、近くに立っている杭を示して、あの杭が目印となって正確な位置が今でもわかるから、間違いないと言った。


ミゲルとマヌエルには状況を操っていた「インテリな師匠」がいる――この仮説の根拠はノートへの書き込みだ――という、Saulo刑事の問題提起に話は戻る。


「『カプセルを摂取せよ』という表現は被害者たちの語彙の中にはなかったものです」
刑事はそう推論した。
「同様に、『効果が出てきたら』というのも彼らにしては少々洗練されすぎている。この書き込みは、誰かが彼らに書き取らせた指示のように読めます」
「強盗事件説をとるつもりですか?」
私は訊ねた。刑事は肩をすくめてみせた。
「どうやったら、彼らが大金を所持していたなどと見ただけでわかると?彼らはついぞ車や電子部品を買ったりはしなかった」
「この話には隠された裏がある、と考えているのですか?」
私は刑事に訊いた。
「ミゲルのいとこは、ミゲルがこの旅行に行くのを止めさせようとしていました。何の儲けにもならないから、とね。そのいとこに話を聞きました。ミゲルはこう答えたそうです、『車を買うなんてのはこの旅行の本当の目的じゃないんだ。俺が心霊主義を信じていようがいまいが、戻ってきたら話してやるよ』と」
カンポスの自宅で見つかったという本はどのような内容のものでしたか?」
「一般的な心霊主義の本です。著者はベゼッラ・デ・メネゼスという男です」


ジャニーヌは、被害者たちがカンポスで使っていた仕事部屋について訊ねた。
「小さな部屋でした」
刑事は答えて言った。
「4メートル×3メートル程度の大きさで、ミゲルがTVを修理するのに使っていました。我々はそこで特殊な素材が置かれている棚を見つけましたが、特に怪しいものはありませんでした」


「銅のマスクについてはどうですか?」
「彼らは銅のシートからハンマーで叩いて、マスクを打ち出したのです。とても粗いつくりの、どう見ても手製のマスクでした」


私はベザーニのいわゆる告白に立ち返ってみようとした。刑事は笑って言った。
「やつは宝石とタイプライター専門の泥棒です。あいつのあだ名はPapinho de Anjoと言いますが、これは詐欺師って意味です。ベザーニはそれまで二度ほど脱獄歴がありましてね。その後に再逮捕されて、厳重なことで定評のあるサンパウロのヒッポドローム刑務所にいたんですよ。やつはニテロイ留置所に移送されるかもしれないという望みを抱いて、そんな話をでっち上げたのでしょう。ニテロイ留置所からなら簡単に脱獄できると、皆知っていますから!もっとも、ベザーニは殺人について『自白』した時に、ミスを犯しました。死体を別の山に捨てたと言ってしまったんですよ。そのせいであいつはヒッポドローム行きになったわけですが、その後どうなったと思います?奴は結局、ヒッポドロームからも脱獄したんですよ!」


周囲に広がる広大な風景からの収穫として、私は現場周辺の地図を描き上げた。スケッチを確認しているとき、私は送電線と高い送電用鉄塔があるのに気が付いた。
「警察の連絡用に作られたんだ」私は言った「送電線は1966年当時にはなかった」


「もう一度、現場で何が見つかったのか、正確な状況を確認しましょうか」
 最初に死体を見つけた男が落ち着いた声で答えた。彼の語る内容は新聞で報じられたものとは微妙に細部が違っているようだった。
「何人かの少年が自分たちの凧を探していた時に、死体を見つけたのです。彼らは私の家まで降りてきて、そのことを話しました。私は彼らを警察まで送りました」
「死体は地面に直接横たわっていたのですか」
私は訊ねた。
「死体は草の葉のベッドの上にありました」


「臭いはどうでしたか?」
「いいえ、死体は臭ってはいませんでした。」
 男はそう言った。
「それに、死体は肉食獣に齧られたりもしていませんでした」


 大きく、威嚇的な黒い鳥たちが大勢、私たちの上で旋回している空を指さして私は言った――「あいつらはどうでしたか」
「やつらも、死体をついばんだりはしていませんでした」


 「新聞の報道によれば、少年たちは腐臭をいぶかしんでここにやってきた、とありますが、この点についてはどう考えますか」
「私がここに着いた時には、死体から腐臭はしていなかったのです」


 私たちは車を停めてあるピント通りへと、長い道のりを下り始めた。マヌエルとミゲルがついに歩むことのなかった帰路であった。刑事は、被害者たちは再び丘を降りて帰るつもりだったろうと言った。そうでなければ、なぜ彼らはミネラルウォーターの瓶のデポジット用の受領証などをバーで受け取ったのか? 刑事は事件から14年たった今でも現場には草が生えていないことを怪しんだ。そして彼は、滞空していた円盤については何の説明もしなかった。


 今日では、私のUFOデータのファイルは、14のぎっしりと詰め込まれた引き出しキャビネットでなんとか収まるほどに増大してしまっている。ファイルは国ごとに分けられており、ブラジルのファイルの中には、高度に熟達した探索者であったオラヴォ・フォンテスという名の医学博士が、癌で亡くなる直前に私に報告してくれたオリジナルの文書のシリーズが含まれている。


 フォンテス博士がシカゴの私たちの元を訪れてくれたのは1967年のことで、彼は事件の報告書の束をスーツケースから取り出すと言った。


「これを貴方に差し上げたいと思っております」


 フォンテス博士はそのとき既に、自分の死期が近いことを悟っていたのだろうか?彼が私にくれたのは、銅のマスク事件や、その他のニテロイ地区でのUFO目撃に関する、彼の個人的な調査報告書だった。


 その事件は悲劇の二か月前(訳注:これは計算間違いだと思われる。「悲劇」がヴィンテム丘事件のことなら8月だから五か月前)、1966年の3月16日の午後9時15分に起こった。発光する長円形の物体が高さ30メートルほどの空中に浮かんでいるのを目撃された。目撃者は54歳の電子機器会社の経営者で、工業技術者として訓練を受けた者だったが、彼が「陽気な」球体と呼んだもののスケッチを何枚か描いていた。彼はそれを妻と娘、娘の婚約者で国営ブラジル銀行に勤務する役人らとともに目撃したのだった。物体はニテロイのモロ・ダ・ボア・ヴィアジェムを越えて飛び去って行ったという。


 明らかにこれは、この地域でデ・ソウザ夫人の目撃した巨大な楕円形の物体と無関係ではない。物体の目撃と、不可解な物理学的、そして生理学的な効果―目撃者にとって悲劇的な結果になるようものを含む―との間に相関関係があるかどうかはわかっていない。UFOに関する文献の大部分はこのような事例について言及していないが、それは懐疑派とビリーバーたち双方への挑発だからだ。


 古い理論を脇に置いて、新しい証拠を調査する時がやってきたのだ。

 ――ジャック・ヴァレ『コンフロンテーションズ』(1990)プロローグより



△参考画像:遺体が所持していたノートの中の、謎めいた指示の部分