夏休みボンクラ課題図書シリーズ第一回 ロードマークス

 やぁボンクラ諸君、夏休みの課題は順調に進んでいるかい?
 この日記の読者は大半が社会人だと思うけど、社会人だろうと学生だろうとボンクラならば夏休みは課題図書を読むべきなんだよ(よくわからない論旨)。
 そんなわけで勝手に課題図書を設定して紹介してみようというチラシの裏企画、第一回はやっぱりというか必然的にゼラズニイから『ロードマークス』を選んでみましたよ。


Roadmarks

Roadmarks

 永遠の過去から未来へとつながる「道」。
 この「道」を行き来する能力を持つ者は望む時代・望む場所に行くことができる。
 さらには自らが望むような世界への「枝道」を見つけ出し、それを「本道」にすることすら可能だ。
 「道」を行き来できる能力者の1人、レッド・ドラキーンは車に搭載された相棒の女性人格マイクロドット・コンピューター・アレイ
悪の華(フラワーズ・オブ・イーヴル)」(端末は本当に詩集の『悪の華』)とともにさまざまな時間と空間を彷徨っていた。
 レッドの目的は自らの失われた過去を取り戻すことなのだが、かつての仕事仲間から恨みを買い公開殺人ゲーム「黒の十殺」の標的にされてしまう。
 一方20世紀末のクリーヴランドではランディ・ブレイクという青年が同じくマイクロドット・コンピューター・アレイの「草の葉(リーヴズ・オブ・グラス)」を見つけ出していた。
 ランディは「草の葉」の指示に従って「道」へと向かう-ランディの父、レッドを救うために。
 「黒の十殺」の刺客たちの襲撃を退けつつレッドは自分の過去を取り戻すべく「道」をひた走るのだが−


 いやはや、こいつはスゴいゼラズニイなのだぜ。
 カットバックを多用してスピーディーに描かれる幾つかの並行プロットにぐいぐいとひきこまれてしまうのだ。
 なにせ、オープニングで主人公は古代ギリシアの「マラトンの戦い」へと赴きギリシア側を勝たせようと近代兵器を満載したピックアップで「道」を疾走しているところから始まる!
 しかもその途中で「チョビ髭を生やした小男のドイツ人」と出会って「どうしたアドルフ、まだ自分が勝ったところを探しているのか?」なんてことを言ってのけるのだ。
 かと思えば次のシーンでは男を絞め殺さずにはいられないシリアル・キラーの美女「ストラングレナ*1」が「黒の十殺」の刺客としてスカウトされるプロットが挿入されてくる…
 敵の刺客が少林寺で修行したモンクとか脳だけ人間・身体は戦車のサイボーグとか、さらには遠隔操縦されるティラノサウルスと来た日には「ゼラーズニーイ!!」と歓喜の絶叫ですよホントに。
 のみならずレッドの味方として登場するマンダメイにいたっては「たった一個のウイルスからひとつの惑星全体にいたるまで、どんなものでも破壊できるように設計されている」という最終兵器アンドロイドなのですが趣味は陶芸。
 普段は十世紀のアビシニアの山奥で隠居して壷焼いてるマンダメイかわいいよマンダメイ。
 私的にはこの作品の脳内ヴィジュアルは寺沢武一しかない、と断言してしまいましょう。
 レッドと相棒・フラワーズの洒脱な会話はコブラとレディのコンビを想起させるし*2、過去から未来までのギミックが一堂に会するアメコミ的にぎやかしのSFセンスはやっぱ寺沢武一ワールドっぽいぜ!
 まとめると、ゼラズニイらしい「カッコいい超人がカッコいい台詞を吐きつつカッコよく活躍してカッコいいクライマックスへとカッコよく疾走するカッコいいSF」とでも言えばわかっていただけるでしょうか(わかるかよ)。
 ある意味では『真世界シリーズ』5巻分を1冊に濃縮しようとして出来たヘンな作品、とも言えるでしょう。
 カッコいいエンターテイメントSFが好きな方にはぜひとも一読をお薦めしたいところですが現在絶版。
 サンリオ文庫なんで神保町のSF系古書店行けばいつでも在庫あると思いますが…オデが古書センター(2Fの奥がカレー屋「ボンディ」になってるあのビル)の中野書店で買ったやつはいくらだったかなえーと…1500円。
 まぁ、ゼラズニイサンリオ文庫の残り二作品(『影のジャック』と『わが名はレジオン』)よりはお求め安い相場でなおかつこの三タイトル中では一番明快かつ爽快な超人アクションSFなんでオススメですよ!(別に古書店の関係者ではないッスよ、図書館で探してみるのもいいんじゃないかな!)
 そして最後に推敲しようとすると前半と後半で文末が「だ、である」と「です、ます」という不統一っぷりを発見するもマンドクサいのでこのままにしておくことにする(酒気帯びの面で)。

*1:絞殺(strangle)する女、の意

*2:したがって私の脳内キャスティングではレッドの声は野沢那智だしフラワーズは榊原良子しかないわけだ