「Wonders in the Sky」誘拐事例を紹介してみる

 まだイントロダクションが全部終わってませんが、ここで唐突に、実際の事例をちょっと紹介してみます。


 NO.312.1700年8月、フィンランド東部Sahalahti 「円盤による誘拐」
 カテゴリー:未確認の空中物体、正体不明の存在(単独)、誘拐


 Sahalahtiの村の上空に円盤(disk)が浮かんでいるのが目撃された直後に、Tiittuと言う名の、鍛冶屋の老人が行方不明になったと言い伝えられている。Tiittuの息子は彼を探したところ、「熊」のような存在に遭遇した。「熊」は彼が何処に行ったのかを息子に語ったという…


 ある日、Tiittuが森へ向かった後、村人たちは村の上空に大きな円盤が浮かんでいるのを目撃した。円盤は動かずにしばしの間浮かんでいたが、やがてTiittuの向かった方角へと飛び去っていった。村人たちは、これは世界の終わりのしるしであると信じ、恐れた。


 村人たちは二日間、家の中で祈り、聖歌を歌い、己の罪を告解し続けた。三日目にようやく村人たちは落ち着きを取り戻すと日常生活に戻った。Tiittuはまだ村に帰ってきていなかったので、村人たちは捜索を始めた。Tiittuの息子は、森の中で突然、大きな熊のようなものに出会った。熊のようなものは、去り際にこう語った―
 「恐れずともよい。お前の父を探すのは無駄なことだと教えよう。虹のような『空の船(sky ship)』を見たはずだ。お前の父を、お前たちよりも高位の種族が住まう、、よりよい天空の異界へと運んで行った。おまえの父はそこで安らかに暮らし、故郷を懐かしがることもない」
 そう言うと「熊」は消え去り、村人たちはTiittuの捜索をやめてしまった。


 Sahalahtiの人々は皆、この謎めいた事件について語り合った。新任の司祭は教会で「この話は罪に満ちた妖術(witchcraft)であり、酔っ払って気の狂った者の想像力を示しているに過ぎません。ですから、この話のことは忘れてしまいなさい」と説教した。


 出典:フィンランドの研究者Tapani Kuningasがフィンランドの雑誌Vimana(No.3-4,1967)に寄稿し、後に彼の著書「Ufoja Suomen taivaalla」(Kirjayhtyma ,Helsinki,1970)に収録した事例。彼は、この物語がフィンランドの東部にあるSahalahtiに伝わる話だと主張しているが、現存しない一通の手紙しかその証拠はないという。


 以上、312番目の事例でした。
 円盤の飛来、鍛冶屋の老人が行方不明に、捜索する息子の前に大きな熊のような何かが現れて人語を話す、とストレンジネスの連打ですね!いやー、ええ話聴かせてもろうたわ!

ところで「熊」が言っている「虹のような『空の船』」というのは、冒頭で村の上空に浮かんでいた円盤(disk)のことだと思うんだけど、虹のような円盤……いやなんとなく言いたい形はわかるンだけど。

 円盤の飛来を「世界の終わりのしるし」であると村人が受け止めたり、「熊」が語る「よりよい別世界」のイメージとか、全体的に宗教的な文脈でストレンジネスを解釈しているお話ですね。最後に教会の司祭さんがそういう解釈を否定して終わるのを含めて。現代のETH派のUFOマニアが解釈するとしたら、熊型宇宙人が鍛冶屋の老人を誘拐して、ご丁寧に息子に「もう探さなくていいから!」と忠告して去って行ったってことですかね。もっとも、そう読み込んだところで、登場する「存在(entity)」がなんで「熊」なのかというところはスッキリしないわけですが。この地方では熊に対してどんな民俗学的な意味があるのか?というのがちょっと知りたいところなんですがね。
 日本だと「神隠し」という文脈で捉えられるような事例ですが、全体的に情報が少ないこともあり、奇妙さが残る話です。


 『Wonders in the Sky』読書メモ、次回はまたイントロダクションに戻ると思います。