『Passport to Magonia』とジャック・ヴァレのステッキー世界について語る

 最近、色々とヘンなキーワードとかでこの日記に来る人がチラホラいてそういう方のログを見るたびに「も、申し訳ねぇーッ」と思いつつも俺専用チラシの裏なもんでひとつそのへんはご勘弁を。
 というか例えばこれとかどう見ても車関係の検索してるのになぜウチを見に来るのかしら。
 

 昨日の話しの続き。
 1961年、アメリカはウィスコンシン州でヘンな遭遇事例が報告された。
 ジョー・シモントンという男が自宅の庭先に着陸している円盤並びにその搭乗員と遭遇したというのだ。
 搭乗員は三人いて、黒い髪に浅黒い肌で身長1.5m、年のころは二十代半ばに見えたという。
 こいつらの一人が身振り手振りでシモントンに「水が欲しい」というようなことを伝えてきた。
 シモントンは渡されたピカピカのバケツに水を汲んでやり、代わりに円盤内部にあったパンケーキを貰った。
 その後円盤は南の空に高速で飛び去っていってしまったという。
 シモントンは貰ったパンケーキを食べてみたが「ボール紙のような味」がしたという。
 後にこのパンケーキを研究機関で分析してもらったところ、材料は全て既知の物質だったが塩分が全く含まれていないことが判明した。


 …なんだこりゃ、と思うようなツッコミどころの多い話ではある。
 なぜ円盤搭乗員は水を欲しがったのか。 なにも人間と交渉して手に入れなくともなんとかなりそうだ。
 そして代わりに貰ったのがなにゆえ「パンケーキ」なんだろうか。 もっとこう、宇宙のテクノロジーあふれるアイテムとか貰えばいいじゃないのかよと思うことしきりである。
 私だったらポワワ銃*1とか要求するな。
 貰ったパンケーキもなんというか脅威の栄養効率とか地球上に存在しない未知の物質が検出されたら盛り上がるもののそういうことナッシング。
 しかし最後に突然なぜか「塩分が無い」というよくわからないオチがつく奇妙さ。 投げっぱなしジャーマン。
 この事件の珍妙さに世間は大笑いし、円盤研究者たちもこの「酔っ払った老人の幻覚」とかいって片付けようとしたその時…
 我らがヴァレ先生がこの事件について興味深い指摘をしてみせたのだ。
 「ヨーロッパの民間伝承では妖精たちは人間に水と食料の交換をしばしばもちかけるとされている。また、塩は妖精が嫌うものとしてよく知られている。 この他にも円盤目撃事例や円盤搭乗員との遭遇報告は妖精についての民間伝承と重なる部分が多々見うけられる。」と。
 な、なんだってーキバヤシ…いやヴァレ先生!
 じゃあ宇宙人はやはり以前から地球に飛来して我々はそれを「神」とか「悪魔」とか「妖精」とか「妖怪」とか認識していたってことかー、と凡百の円盤研究者なら話を進めるところだがヴァレは違った。
 ヴァレは異類との遭遇体験を「マゴニア体験」と呼び、人間が古来からこういった体験をしてきたと考えた。
 しかし彼は良心的な科学者なので「宇宙人がいる→昔から地球に来ていた」という論理を採用せずに、「なんかよくわからない、我々のリアリティを壊すようなモノがいるらしい。昔の人はそれを神とか悪魔とか妖精だと思った。そして現代に生きる我々はそれを地球外からの知的生命体だと勝手に思っている。しかしそれがなんなのかはわからねー」と考えたのだ。
 円盤とその搭乗員についての報告を「ウソ/ホント」「いる/いない」のレベルではなく民俗学や神話学的見地から見てみるとわかることもあるというのがヴァレの示した新たな領域だった。
 ヴァレの主張は円盤研究界に衝撃を与え、これ以降の「ニューウェーブ派」といわれる流れの元になった。
 …と、円盤研究史は話し出すと長いしヴァレ自身にしたところでこの後陰謀理論に傾倒してさらにオモシロヤバスな方向に向かったり(ちなみに現在は円盤研究からは引退、インターネット関係の企業のオーナーになってるらしい)しているがそれは別の話。
 『Passport to Magonia』というヴァレの著作へのレスペクトとそのタイトルセンスのカッコよさ*2が好きでこの日記を立ち上げた時に「タイトルどうすっか。CoHと関係ないけどカッコいいのがいいよな!やっぱアレか!『Passport toMagonia』か! 意味知らない人でもなんとなくオサレーでカッコよく思えるもんな!(愚鈍な顔つき)」と採用させていただきました。
 そういうわけで、映画の『マゴニア』とは直接の関係はありません。 この日記のタイトルと関係ある映画はむしろ『未知との遭遇』と『プロフェシー』です。
 

やっとこの日記のタイトルの秘密が明かされたところで今日は終わる。 本当の闘いはこれからだ!(打ち切り漫画風結末)
 

*1:命名古賀亮一。ポワワという効果音とともにリング状の怪光線を放射するセンスオブワンダー炸裂の銃が昔のSFにはよく出てきましたがソレのことです

*2:ヴァレの本のタイトルはカッコいい。UFOカルトを論ずる『Messengers of Deception(欺瞞の使者)』とか、自分の研究日記『Forbidden Science(禁じられた科学)』とか。